大阪家庭裁判所 昭和38年(少ハ)2号 決定 1964年2月14日
少年 Y(昭二〇・一・二〇生)
主文
昭和三七年一〇月一九日付でなした中等少年院送致決定は取り消さない。
理由
本件保護処分取消の申立の理由は当裁判所が昭和三七年一〇月一九日なした中等少年院送致決定(別紙)中非行事実は、Aがなしたものであつて、少年はこれに関係がないというにある。そこで少年に対する原審恐喝保護事件の記録を検討し、なお当審において取調べた証人Bの証言、Aの検察官に対する供述調書謄本等を総合すると、昭和三七年九月○日を除く非行事実は、原決定のとおりであり、九月○日の非行事実は、「少年は、昭和三七年九月○日、ABと共謀の上、金員の喝取を企て、少年及びBにおいて大阪市大正区大正通○丁目○○番地○○船工株式会社におもむき、川○を同区三軒家市場通△丁目○○喫茶店に呼寄せ、Aにおいて、同人に対し、「二人の若い衆に小使いでもやつてくれ、そうしたら若い衆もおさまるから、一万円づつ二万円出してくれ」等と申向け、同人を畏怖せしめ金一五、〇〇〇円を交付する旨約束させたということが認められる。
原決定と認定がことなるのは、少年が兄貴分であるAの名を出すことをおそれて隠していたところ、同人が別件で逮捕され本件を自白したためである。
以上のとおり原決定には非行の態様につき一部誤認があるけれども、右誤認の程度は僅少であり、要保護性の認定に影響を及ぼすものではなく、その結果保護処分を取消す必要がないから、少年法第二七条の二第一項所定の審判権がなかつたことを認め得る明らかな資料を新たに発見したときに該当しないものというべきである。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 白井皓喜)
別紙
決定(大阪家裁 昭三七(少)一〇一四九号 昭三七・一〇・一九決定)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、昭和三六年秋家出し、同三七年一月暴力団○○組に加わつたが、昭和三七年八月○○日大阪市大正区内を自動車に乗つて通行中、川○巌の運転し、大○勝○の乗車する○○船工株式会社の自動車が直ちに少年に道路を譲らなかつたので、これに因縁をつけて金品を喝取しようと考え、同日午後四時頃、大阪市大正区大正通○丁目○○番地○○船工株式会社において、大○に対し「一緒に乗つていた客人にわびを入れてくれ、相手は△△組の客人やからただでは話がつけられん、先程の運転手を出せ。」等と申し向け同人、川○及び上記会社に危害を加えかねない態度を示して脅迫し、同年九月△日午前九時頃、同市大正区三軒家通市場通△丁目○○番地○○会○○組事務所において、大○及び川○より清酒一本を同組々員Bに交付させ、Bよりこの交付を受け、これを喝取したが、さらに大○より金品を喝取しようと考え、Bと共謀の上、同月△日頃の午後七時三〇分頃、上記○○組事務所において、川○に対し、「朝酒を貰つたが、こんなもので済むと思とるのか、五万円位出して貰わなならん、持つて来んかつたら持つて来る迄何遍でもお前の会社に行く」と申し向け、暴力団の勢威を示し、川○に如何なる危害をも加えかねない態度を示して脅迫し、同月○日上記会社において大○に対し「会社が話をつけてくれんとわしらみたいな者が毎日出入したらあんたらの所が困るやろ。」と申し向けて脅迫し、よつて同月○日午前一一時二〇分頃、上記会社において大○より現金一五、〇〇〇円の交付をうけてこれを喝取したものである。
(罰条)
上記所為は刑法二四九条一項、六〇条に該当する。
(処遇理由)
本件犯罪は上記のとおり何等理由のないのに因縁をつけて暴力団の力を示し一般人より金品を喝取したものであつて極めて大胆悪質である。少年は昭和三六年一〇月頃家出し、正業に就かず徒食し、同三七年一月頃には暴力団○○組に加わり怠惰安易で遊興的な生活を続けていたものである。そして性格的には安易な気持が強く、定見なく怠惰無気力で弱者にごうまん、強者にはへつらう傾向を有している(鑑別結果通知書及び少年の生活態度参照)。又ヤクザには強いあこがれを持ち大きい文身までしているのである。かかる事情よりすると少年の性格及び生活態度のゆがみは強力な措置をもつて矯正する必要があると認められ、少年や保護者の希望する高知に行つて百姓等をして生活することは少年の上記性格、生活態度より見て可能性は極めて低いから、少年を少年院に送致して矯正教育を施すのが最適であると認めた。よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項を適用して主文のとおり決定した。
(裁判官 井関正裕)